伊万里焼のデザインは、見ていて飽きることのないほど多種多様で、豊かな想像力とユーモアに溢れています。その中には、一見すると単純な模様や文字に見えても、深い意味が込められているものが多くあります。
この覗のデザインも、その一例です。一見すると「福寿」の漢字と松葉、熊手、箒が描かれているだけに見えますが、それぞれの要素を紐解くと、さまざまな縁起の良い意味が込められていることに気づきます。
まず、「福」は幸福を、「寿」は長寿を意味し、伊万里焼の文様によく使われる吉祥文字です。さらに、一年中青々とした葉をつける松は長寿の象徴であり、松葉は落ちても二本の葉がしっかりと繋がっていることから、夫婦円満の象徴ともされています。
また、熊手には「福を掴んで離さない」や「福をかき集める」という意味があり、箒(ほうき)は古来より「箒神(ははきがみ)」が宿るとされ、安産や邪気払いの縁起物とされています。特に、箒を玄関に飾ると「幸せをかき入れる」と言われています。
さらに、松葉・熊手・箒という組み合わせから連想されるのが、能の演目「高砂」です。「高砂」では、老夫婦が松の木の下を熊手と箒で掃き清める情景が描かれます。かつては、多くの家庭に熊手を持ったお爺さんと箒を持ったお婆さんの置物や掛け軸が飾られており、夫婦円満や家内安全、長寿を願う縁起物として親しまれていました。
伊万里焼に描かれる意匠の多くは、縁起の良い動植物や風景、吉祥文様です。この覗も、「高砂」に登場する老夫婦を直接描くのではなく、松・熊手・箒を用いることでその意味を表現し、長寿や夫婦円満の願いを込めた構図となっています。
おそらく、この覗は結婚や結婚記念日などのお祝いのために作られたものなのでしょう。伊万里焼の文様を一つ一つ紐解きながら、当時の人々の生活や思いに思いを馳せることも、伊万里焼の魅力のひとつではないでしょうか。